Next Level Design

腕の上で輝く美に挑む。

年差±5秒「光発電エコ・ドライブ」デザイン開発 

シチズン時計株式会社(東京都)

時代を超えて、愛着の持てる腕時計であるために。普遍性と新しさを兼ね備えるデザインを追求してきた The CITIZEN。そのデザインの背景には、どんな意志やこだわりが込められているのか?30周年記念限定モデルであるIconic Nature Collectionの開発を担当した、チーフプランナーの市川貴之とデザイナーの奥村颯太に話を聞きました。

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大切なのは、デザイナーの斬新な発想を
制限しすぎないこと。

商品企画とは、具体的にはどういった役割なのでしょうか?

市川:1本の時計が生み出されるまで、多くの人が携わりますが、その「旗振り役」というイメージがわかりやすいでしょうか。The CITIZENがどのようなメッセージに基づいて、新たなモデルを世に出すのか、そのとりまとめと進行を私が担っています。

商品開発の指揮を執るチーフプランナーの市川貴之(写真中央)。デザイナーをはじめ、スタッフたちのアイデアや創造力を束ね、The CITIZENならではの価値を形にしていく。

商品企画の中で、デザインはどのような位置づけでしょうか?

市川:デザインは、一番と言って過言でないほど重要です。私たちの想いであったり、大事にするところを、お客様に伝えるものがデザインだと考えています。

商品企画の立場として、大切に考えていることは何でしょうか?

市川:大切にしていることは、デザインを制限し過ぎないことです。もちろん、ブランドの姿勢や歴史などを汲み取った上での話にはなりますが、デザイナーの新たな発想を邪魔しないことを大切にしています。

デザイナーの提案を尊重しながらも、商品企画から修正を求めることもありますでしょうか。

市川:はい、デザイナーが描いたスケッチがどれだけ美しかったとしても、プロダクト化した際、美しくなければ、納得いくまで修正を依頼します。スケッチで何回もやりとりを重ね、時計の実物が出来上がってきてからも、「想像以上に色が濃く見えるので、調整が必要ではないか」など、デザイナーと商品企画、技術者で繰り返しやりとりを行うのが、時計作りの現場の姿です。今回の30周年企画のモデルに関しても、デザイナーとのコミュニケーションを重ねてこだわり抜いたので、The CITIZENの想いが詰まったモデルだと胸を張って言えます。

2025年にThe CITIZENは30周年を迎えます。登場するアニバーサリーモデルは、どのような企画なのでしょうか?

市川:30周年を迎えるにあたって、「The CITIZENはどのような姿勢を持ったブランドなのか?」を改めて問い直しました。その結果、常に古くからあったものを大事にしながら変化を志向している、まさに「不易流行」という理念がブランドの根底にはある、という結論に至りました。今回の企画は、30周年という節目にお客様にその姿勢をしっかり伝えたい、その想いからスタートしています。
30周年を記念した限定の第一弾モデルであるIconic Nature Collectionは、古くから日本に息づく美意識、なかでも日本最古の随筆、枕草子が主題とする「をかし」の美意識をテーマにデザインしています。

30周年記念限定モデルとして登場した、年差±5秒「光発電エコ・ドライブ」和紙文字板限定モデルIconic Nature Collection

数ある日本の美意識の中で、「をかし」を取り上げた理由はどこにありますか?

市川:源氏物語がテーマとした「もののあわれ」の美意識など、さまざまな選択肢がありました。「もののあわれ」が侘び寂びに近い、どちらかというと負の感情の中からプラスを見出していく美意識であるのに対して、「をかし」は美しいものを美しいと思う、よりシンプルでポジティブな美意識だと感じていまして、「をかし」をテーマとして選択しました。

「にじみ」と「かすれ」の表現で、
移ろいゆく時の流れ、情景を描いて。

「をかし」というテーマを受けて、奥村さんはどのようにデザインを進めていきましたか?

奥村:枕草子を繰り返して読んでいくうちに、重要なキーワードとして、移ろいゆく時の流れを感じられること、移ろいゆく情景こそが「をかし」の大切なポイントではないかと思い至りました。この発見から、移ろいゆく時の流れを感じられる表現を目指しました。

そうして完成した1つが、文字板の淡いピンクが印象的なモデルだと思いますが、コンセプトを伺えますでしょうか?

奥村:枕草子の有名な一節「春はあけぼの。やうやう白くなりゆく山ぎは、すこしあかりて〜」からインスピレーションを受けまして、「春の明け方の情景」をコンセプトにしたモデルになるのですが、朝、日の出前に現れる雲を表現しています。

文字板の淡いピンクの色調が暖かな春の訪れを感じさせるモデル。雲龍紙の繊維を活かした「にじみ」と「かすれ」の表現で、春の明け方に漂う雲を描写している。

文字板には土佐和紙が採用されていますが、どのような背景があるのでしょうか?

奥村:「光発電エコ・ドライブ」搭載モデルは、文字板の下にソーラーセルが配置される構造ですので、文字板は光を透過しないといけない制約がありました。制約を満たしながら光を透過させ、なおかつ自然で美しい表現ができる素材として、The CITIZENの複数のモデルに和紙が採用されています。

そんな和紙が文字板に採用されたストーリーがあった上で、今回、移ろいゆく雲を表現するにあたり、和紙特有の質感が最もふさわしいという結論に至りました。土佐和紙の中には、長い繊維を漉き込んだ雲のような模様が特徴的な「雲龍紙」という種類があり、まさに最適でした。和紙の質感で雲の風合いを表現しながら、枕草子の一節から感じる暖かな春の訪れをお客様が体感できる文字板とするために、「にじみ」や「かすれ」という表現を用いて描いています。この色調は、雲はもちろん、春の気配の象徴である桜にも見えるように細かな調整を重ね、こだわり抜いたものです。

ひとえに和紙と言っても、その質感や個性は千差万別。文字板下にソーラーセルを配置する「エコ・ドライブ」搭載モデルとして、光の透過率も考慮しながら美しさを追求する和紙選びは、デザイナーの重要な役割のひとつ。

大切なのは、ただ美しいだけでなく、
腕に乗せたときに美しいか。

「春の明け方の情景」をテーマにしたモデルの魅力について、商品企画の立場からはどう感じましたか?

市川:私の中で凄いなと感じたのが、和紙に直接色を印刷して、「ぼかす」という手法で美しさを表現した点です。商品企画や技術者の中には、この発想が全くありませんでした。デザイナーが「こんな表現をしたいから、この使い方はどうでしょうか?」と提案して生まれたものだったので、デザイナーの発想力の深さをまざまざと感じたのがこのモデルでした。

奥村:長い繊維を漉き込んだ「雲龍紙」特有の質感を活かしたい想いがあり、「直接和紙に色を印刷すればより活かせるのでは?」というシンプルな発想から作成していったのですが、シチズンとしては初めての試みだったので、何度も検証を重ねて進めなくてはならず……ただ今までにない手法で作成できれば、30周年という節目によりふさわしいモデルになるのではと、思い切って挑戦しました。

最初の試作から、度重なる調整が行われたと伺いました。

奥村:そうですね。最初に試作したモデルは、春の明け方の雲をイメージして、かなり濃い色調のピンクを用いて作成したのですが、実際に腕の上に乗ったときに腕なじみが悪くて、市川からも「春らしくない」という意見を受けました。「どうすればもっと春らしい柔らかな色調にできるか?」と、改めて枕草子を読み返したりもして、春の訪れを感じるような色調に持っていく方が良いのではと思い、柔らかな色を選定していきました。その転換によって、暖かな春の気配を感じ取ってもらえる仕上がりになったのではと思っています。

The CITIZENにとって、ピンクは挑戦的な色調だと感じました。

奥村:まさに、そうなんです。ただ、30周年という節目だからこそ、挑戦する価値があると思いました。裏話をすると、当初さまざまな部署の方から「本当に大丈夫か?」と心配されていまして……ただ枕草子の「春はあけぼの」の一節を表現するには、ピンクという色調が絶対に必要だと感じていましたので、 強い気持ちを持って取り組みました。やはり思い描いた印象を実物で実現することは非常に難しく、その調整作業に多くの時間を要するのですが、本当に数多くの試作を技術者にお願いして作っていただきました。

細部までデザインの調整を重ねるデザイナーの奥村颯太。デザイン案が決定しても、視認性や機能性など腕時計としての完成度を高めるプロセスは妥協なくつづく。

こだわったのは、本当に川が流れているかのように、
いかに表現するか。

深みあるブルーの文字板が印象的なモデルについてもお聞かせください。

奥村:こちらは枕草子の「夏は夜。月のころはさらなり。やみもなほ、蛍の多く飛びちがひたる〜」の一節からインスパイアを受け、「夏の夜の情景」をコンセプトにしたモデルになります。静謐な川の流れ、川の水面に映る月明かりを表現しています。

このモデルの文字板も、和紙を用いているのでしょうか?

奥村:はい、枕草子に登場する月と蛍から連想した、穏やかな流れの川を表現するために、藍染和紙をベースにして、「にじみ」と「かすれ」の表現で描きました。秒針にはゴールド色を採用して、蛍の軌跡を表現しています。

モチーフとなっている川は、枕草子には登場していないのですね。

奥村:ええ、枕草子の文章を読んで情景を思い描いたとき、川が自然と浮かんできました。そのイメージを提案すると、市川からも共感を得て、これは伝わる内容になるのではと思い、静謐な川を表現しました。

商品企画の立場から、「夏の夜の情景」をテーマにしたモデルはどう感じましたか?

市川:このモデルは、文字板が上板と藍染和紙の2層構造になっていまして、そのレイヤーで穏やかな川の流れ、その情景が表現されています。1枚の絵で作られておらず、しかも天然の藍で美しく手染めされた藍染のジャパンブルーは印刷の色ではないですから、上板の印刷とは質感が違うんですね。その合わせ技で、川の立体感や奥行き感を表現できているのが、このモデルの素晴らしいポイントだと感じています。

「夏の夜の情景」を描いたモデルに採用した藍染和紙は、徳島県の工房「Watanabe's」で丁寧に手染めされたもの。日本の美意識「をかし」を体現した、本物の技と素材へのこだわりがここに見て取れる。

1人では到達できない境地に、
連れて行ってくれるのが時計作り。

お2人の時計作りに対する思いもお聞きできたらと思います。 それぞれのお仕事について、どういったところに魅力を感じますか?

奥村:腕時計には、身に着けてくださる方の心にポジティブな影響を与える力がある、そのことに魅力を感じています。時計はたった1ミリ、バランスを変えると、印象が変わってしまうような繊細なプロダクトですので、そのデザインに携わることができるのは、とてもやりがいを感じます。

市川:今まで世になかった新しい腕時計ができる瞬間はやはり最高のものです。実際にお客様から評価いただけるとさらにやりがいを感じます。時計作りは、多くの人が関わっているからこそ、さまざまなアイデアが生み出され、より良いプロダクトに仕上がっていくところに魅力を感じています。

最後に、30周年記念限定モデルIconic Nature Collectionを手に取ってくださるお客様へ、メッセージをお願いします。

奥村:美しい四季のあるこの国で生きる人々が、移ろいゆく四季の情景に抱く感情にも寄り添えるようにデザインを進めました。手に取っていただいた際、季節が訪れる気配を感じていただければ、うれしいです。

市川:30周年記念限定モデルは、開発のなかでも特に時間をかけて作り上げたモデルです。The CITIZENの姿勢を体現した時計であり、私たちが考える「をかし」の美意識を、「にじみ」と「かすれ」という技法で時計に表現しましたので、まずは「引き」でその美しさを見ていただきたいです。その後、本当に細かいところまでこだわっていますので、「寄り」でさまざまな角度から楽しんでいただきたいですね。そして、やはり腕に纏うものですので、身に着けた際にしっくり来るように何度も試作を重ねています。「引き」で見て、「寄り」で見て楽しんでいただいて、最後、身に着けて日常を華やかにしてもらえたらと思います。

About

文字板に用いる和紙を漉く手、
素材・原料を吟味する手、
デザインをおこす手、時計を組み立てる手……

人生に永く寄り添う腕時計であるために。
次なる理想に挑みつづける「The CITIZEN」は、
モノづくりへの情熱を秘め、
卓越したクラフトマンシップが息づく
数多くの手のリレーによって生み出され、
その末に身に着ける方のその手に届けられています。

Hand to Hand Story では、
多岐にわたる時計づくりの工程で、
欠かすことのできないさまざまな
熟練の「手」に毎回スポットライトを当て、
そこに秘められた技術や想いを紹介していきます。

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