Next Level Design

唯一無二の日本の緑を創る。

草木染緑和紙文字板 デザイン開発

シチズン時計株式会社(東京都)× Watanabe’s(徳島県)

「光発電エコ・ドライブ」50周年という節目に、The CITIZENが挑戦したのは、日本の染色文化に立ち返り、どこまで深い表現に踏み込めるか、という試みでした。藍と草木の色を重ねることで創造される、緑色の和紙文字板。その開発を担った、時計製造エンジニアの山影大輔と藍師・染師の渡邊健太さんに話を聞きました。

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色と色を重ねて新たな色を紡ぐ、
奥深き草木染の世界。

時計製造エンジニアという肩書きのもと、時計づくりではどのような役割を担われていますか?

山影:時計の文字板を中心に、新しい要素を取り入れた開発を担当しています。デザインやアイデアをそのまま形にするのではなく、量産の際にもきちんと品質が保てるか、安定して生産できるかまでを考えるのが役割です。商品を企画する部門よりも製造現場に近い立場にいるからこそ、「作りたい」という想いと、「製品として高次元で成り立つ」という現実の両方を見ながら、時計づくりを進めています。

「光発電エコ・ドライブ」の50周年という節目にあたって、どのようなテーマがありましたか?

山影:「The CITIZENらしい特別なモデルをつくる」という大きなテーマのもと、今回の開発がスタートしました。The CITIZENでは、和紙文字板がブランドの個性として定着していますので、その延長線上で、これまでにない表現に挑戦できないかと相談を受けたのが始まりです。その中で、美しい緑色の文字板に挑戦したいという要望があり、それをどのような技法で、品質を保ちながら成立させられるか。実現可能性とデザイン表現の両立を考えながら、開発を進めていきました。

年差±5秒「光発電エコ・ドライブ」草木染緑和紙文字板限定モデル AQ4091-56W
光の透過性を確保した上で高い審美性を実現する、「エコ・ドライブ」50年の進化を象徴する一本。

実際に開発を進めてみて、どのような難しさがありましたか?

山影:調べていくと、自然界にある単一の材料から、緑色の染料を抽出するのは非常に困難であることが分かりました。けれども、日本では古くから、藍の青と、植物が持つ黄色を重ねることで、緑色を表現してきた歴史があることも同時に知りまして、これはThe CITIZENの思想に合うだろうなと。藍染和紙文字板の開発を経験していたので藍はすぐにイメージできましたが、化学染料を使うことなく、黄色をどう生み出すかは改めて考える必要がありました。

黄色の染料探しからのスタートだったのですね。

山影:はい。藍染和紙文字板で協業しているWatanabe’sの渡邊さんに協力いただいて、最初はレモンやマリーゴールドから試作を始めました。色を定着させる媒染剤という金属を煮出した液体の種類も変えながら、幾つもの試作を重ね、徐々に方向性を定めていきました。

そうした過程のなかで、どのように絞り込んでいったのでしょうか?

山影:黄色の染料について深掘りしていくと、奈良時代から使われている「刈安」という植物に出会いました。さらにリサーチを進めると、滋賀県と岐阜県にまたがる伊吹山周辺に自生する「伊吹刈安」が、品質の面でも特別な存在だということが分かってきたんです。古くは茅葺屋根や伝統工芸の材料として使われ、さらに「刈安紙」という、和紙を伊吹刈安で染めていた歴史もあり、和紙文字板に使う素材として、とても相性が良いのではないかと。

黄色染料の中でも、長い歴史をもつ伊吹刈安。伊吹山で育った伊吹刈安は品質に優れ、古くは朝廷にも納められていたという。

伊吹刈安は現在も自生しているのですね。

山影:自生はしているのですが、現在は鹿の被害や土砂崩れなどで伊吹山の環境が悪化し、採取量が減少している現実があります。今回、伊吹刈安を購入させていただいている方は、伊吹山の貴重植物の保全活動に取り組まれており、その活動の一環として貴重な伊吹刈安を提供いただいています。限られた素材だからこそ、一つひとつを大切に扱いながら、時計づくりにつなげていきたいと考えています。

伊吹刈安を使った草木染も、藍染和紙文字板の開発を依頼したWatanabe’sに引き続きお願いされたのでしょうか?

山影:はい。藍染和紙文字板の開発を通して、渡邉さんとともに「和紙を安定して染める」という難しさに向き合い、経験を積み重ねてきたことが大きかったです。その土台があったからこそ、草木染という、さらに難易度の高い表現にも挑戦できると考えました。新しい表現に対しても前向きで、一緒に考えながら進めていける。そうした信頼関係があったからこそ、今回の草木染も渡邉さんにお願いしました。

The CITIZENにふさわしい
品位ある日本の色を求めて。

草木染による緑和紙文字板の話を聞いたとき、素直にどう思われましたか?

渡邊:数年にわたって藍染和紙文字板に携わってきましたから、今回のお話も自然な流れとして受け止めました。そうきたか、と(笑)。草木染と藍を掛け合わせて、これまでとは違う色に挑戦するという点も、個人的にはとても興味がありました。Watanabe’sの工房にはそれができる能力があるので、「大変そうだ」というよりは、「やってみたい!」気持ちが強かったですね。

草木染で和紙を染められた経験はありましたか?

渡邊:草木染は布しか扱ってこなかったので、正直なところ、最初はやり方もわからない状態でした。土佐和紙はとても薄く、布とは性質もまったく違います。草木染では、煮出した染料に浸して染めるのが一般的ですが、それを和紙でどう行うのか。まずは、そこから考えなければならず……工房内で相談しながら、「こういう方法があるんじゃないか」と一つひとつ試し、草木染で黄色のベースをつくるところから始めました。

最初に着手されたのは、どのような工程だったのでしょうか?

渡邊:発色の良い緑色をつくるために、まずはベースとなる黄色を、どう出すかを探る必要がありました。身近に手に入る材料として、マリーゴールドとレモンを使い、媒染剤も5種類ほど試しながら、どの組み合わせが最適なのかを探っていきました。

煮出した伊吹刈安の染色液を、刷毛で和紙に塗り重ねていく。黄色のベースとなる色を、濃度を見極めながら丁寧に与える工程。

媒染剤とは、どのような役割を果たすものなのでしょうか?

渡邊:草木染では、金属のイオン反応を利用して、色を発色させたり、定着させたりします。鉄、銅、アルミ、チタン、スズなど、いくつか代表的な媒染剤があり、使うものによって、同じ染料でも色合いが変わります。土佐和紙との相性も含めて確認していくなかで、銅媒染が一番発色が強く、黄色もきれいに出ることが分かったんです。

マリーゴールドとレモンでは、違いはありましたか?

渡邊:マリーゴールドは、花のイメージそのままに、オレンジに近い、温かみのある黄色になります。一方でレモンは、果実の印象に近く、特に銅媒染では、本当にきれいな黄色が出ました。その時点では、「レモン×銅の組み合わせは当たりかもしれない」と手ごたえを感じていました。

そうした過程の中で、シチズンから伊吹刈安の話があったのですね。

渡邊:はい。山影さんから、「伊吹刈安も試してほしい」と連絡をいただき、そこからトライを始めました。実際に使ってみると、同じ黄色でも、色の深みがまったく違いました。レモンは軽やかな黄色。伊吹刈安は、黄色の中にもしっかりとした重さがある。同じ藍を重ねた場合でも、その差がはっきりと現れて、伊吹刈安の方がより雰囲気のある、品位のある緑色になると確信しました。

黄色の深みと藍の深みを重ね、
その両方が感じられる緑へ。

藍染和紙文字板よりも、さらに時間と手間がかかっているとお聞きしました。どのような工程を経て生み出されているのでしょうか?

渡邊:まず、土佐和紙に呉汁(ごじる:大豆の絞り汁)を塗ることで、和紙の繊維に染料が定着しやすい状態をつくります。次に、乾燥させた後、煮出した伊吹刈安の染色液を刷毛で塗り、再び乾かします。この工程は、伊吹刈安の濃度を見ながら何度も繰り返します。その後、銅の媒染剤を使って、色を発色させ、一度洗って乾かします。乾燥が終わると、藍の染色に備えてこんにゃく糊を塗り、和紙の強度を高め、最後に何度も藍を重ねて染めていきます。藍染は浸けて引き上げれば色が定着しますが、草木染の場合は媒染や何度も塗布を繰り返す必要があり、普段あまり行わない工程も多いため、正直とても大変でした。

伊吹山に自生する伊吹刈安を煮詰め、染料を抽出。希少な自然素材から、緑色の下地となる黄色が生まれる。
伊吹刈安による染色液(上)のほか、呉汁、銅媒染液、こんにゃく糊など、土佐和紙に塗布する液は数種類におよぶ。
刈安染を行った和紙に、銅媒染液を一枚ずつ刷毛で塗布。媒染によって色が定着し、黄色の発色がいっそう引き立てられていく。
伊吹刈安の黄色に藍を重ねた瞬間、和紙の上に緑色が現れる。草木染と藍染が交差する、最も象徴的な工程。

伊吹刈安から先に染めるのは、どのような理由からだったのでしょうか?

渡邊:一番は、発色の違いですね。伊吹刈安でしっかりと黄色を入れておくことで、その上に藍を重ねた際の色の安定感が大きく変わります。さらに、藍は植物染料のなかでも光に対する堅牢度が高いので、最後に藍で黄色を覆うように重ねる方が、耐久性の面でも理にかなっている。そう考えて、この順番に自ずと行き着きました。

草木染による和紙文字板として、どのような緑色を目指したのでしょうか?

山影:The CITIZENが持つ品位にふさわしい、深みのある緑色にしたい、というのが一番でした。あわせて、渡邉さんに染めていただくので、藍染ならではの風合いも、どこかに残したいなと。伊吹刈安の黄色と、藍染の藍色が、バランスよく感じられる色を目指しました。

色を決めるまでには、どれくらいの時間がかかりましたか?

山影:渡邉さんと試作を重ねながら、理想とする緑色を少しずつすり合わせていきましたから、1年以上の時間を要しています。

シチズン時計の山影大輔(左)と藍師・染師の渡邉健太氏(右)。山梨と徳島、距離の壁を越えて、理想の色を追求する協業は1年以上の歳月を要した。

実際に染めてみて、どのような点に難しさを感じましたか?

渡邊:一番難しかったのは、色のブレをどう捉えるか、という点でした。今回は藍染の前に草木染が入るので、伊吹刈安の状態やロットによって、黄色のニュアンスが微妙に変わります。藍染だけであれば、ある程度こちらで色をコントロールできますが、草木染が加わることで、その振れ幅が大きくなる。どこまでを許容とし、どの程度の色合いなら成立するのかを、一枚一枚の状態を見ながら判断していく、非常に繊細な作業が求められましたね。

色のイメージは、どのように共有していったのでしょうか?

渡邊:緑色のニュアンスは、見る人によって感じ方が変わりますから、シチズンさんが思い描いている緑色と、私たちが感じている緑色を、しっかりそろえることが大切でした。伊吹刈安の黄色の深みと、藍の深みが、どちらも感じられる状態が理想だったので、その「混ざった緑色」の感覚を、実際の試作を見て、何度もキャッチボールを重ねながら、少しずつ「これだ」というところに近づけていきました。

鉄、銅、アルミニウム──媒染液の違いが、伊吹刈安の黄色に微妙な表情の差を生む。染めた和紙の色を一枚ずつ見比べながら、理想の発色を探る。

「エコ・ドライブ」の進化と深化を
腕に纏って感じてほしい。

藍染和紙文字板から、今回の草木染緑和紙文字板へ。今回の挑戦をどう振り返っていますか?

渡邊:藍染和紙文字板の開発で、和紙を染めるという土台ができていたからこそ、今回の伊吹刈安による草木染にも挑戦できたと思っています。いきなり今回の草木染から始めていたら、もっと手探りだったはずです。これまでの積み重ねがあったからこそ、一段上の表現に進めた。タイミングとしても、とても良かったと感じています。

完成したモデルを見て、改めてその魅力はどこにあると感じますか?

渡邊:伊吹刈安の深い黄色と、藍染ならではの色の出方、その両方を感じられるところですね。ただ混ざった緑色ではなく、よく見ると、それぞれの色が感じられる。そうした色の深みが、この文字板の一番の魅力だと思います。ただ緑色を使うのではなく、素材を選び、色を掛け合わせていく。その面白さを、私自身も今回改めて学ぶことができました。

最後に、このモデルを手に取ってくださる方へメッセージをお願いします。

渡邊:今回の緑色は、ベタ塗りの色ではありません。光の当たり方や見る角度によって、色の深みが変わり、さまざまな表情を見せてくれます。そうした違いを通して、「色には、これだけの可能性があるんだ」ということを感じていただけたらうれしいです。その色とともに過ごす時間のなかで、身に着ける方それぞれの想いや記憶が重なっていく。この時計が、そんな存在になれたとしたら、制作者としてこれ以上うれしいことはありません。

山影:「光発電エコ・ドライブ」の50周年という節目に、「ようやくここまで来た」という完成度だと感じています。光を駆動力に変換するために、初期の「エコ・ドライブ」モデルは、光を受けるソーラーセルが文字板上にむき出しでしたが、50年を経て、今はその存在を微塵も感じさせないレベルまで進化しました。その技術の積み重ねの上に、和紙の美しさや、色の表現を重ねられた。進化を止めずに時を刻み続けてきたThe CITIZENだからこそ、実現できたモデルだと思います。見る方によって、色の感じ方は違うと思いますので、それぞれの感性で、この時計を感じ取っていただけたらうれしいです。

About

文字板に用いる和紙を漉く手、
素材・原料を吟味する手、
デザインをおこす手、時計を組み立てる手……

人生に永く寄り添う腕時計であるために。
次なる理想に挑みつづける「The CITIZEN」は、
モノづくりへの情熱を秘め、
卓越したクラフトマンシップが息づく
数多くの手のリレーによって生み出され、
その末に身に着ける方のその手に届けられています。

Hand to Hand Story では、
多岐にわたる時計づくりの工程で、
欠かすことのできないさまざまな
熟練の「手」に毎回スポットライトを当て、
そこに秘められた技術や想いを紹介していきます。

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